ウェブアクセシビリティとは?よくある3つの疑問

この記事は、ウェブアクセシビリティとは何かについて、技術者でない方に理解していただけるよう、ごく簡単に説明したものです。

  • ウェブアクセシビリティを実現するのはものすごく大変なのでは?
  • 自治体や福祉関係以外の企業には関係ない話じゃないの?と思っている
  • 「うちのウェブサイトはアクセシビリティについてどうなっているのか」とお客様や上司から尋ねられて、どう答えればいいのか困ってる

ウェブアクセシビリティについてこんなふうに思っている方に、基本的な3つの疑問に絞って説明します。

疑問1 : アクセシビリティとは、かんたんに言うと何なのか?

アクセシビリティを日本語で直訳すれば「アクセス可能性」です。どんな人でもアクセス可能なようにしよう、という概念です。

アクセシビリティはあらゆる道具や交通についても言える概念なので、ウェブサイトについては特に「ウェブアクセシビリティ」と呼んでいます。

ウェブアクセシビリティをかんたんにいうならば、誰がどこでどんな端末で見ても読めるようにウェブサイトを作ろう、ということです。

「誰が」には、何らかの障害や制限のある人も含まれます。視覚障害のある人、小さい文字を読みづらい高齢者、色盲や色弱の人、デバイスの操作がしづらい人、などのことです。

「どんな端末で」には、スマホやPCに搭載された一般的なウェブブラウザに加えて、コンピュータが文字を読み上げるブラウザや、点字ディスプレイなども含みます。

疑問2 : 障害者や高齢者のアクセスが少ないサイトには関係ない話なのでは?

「うちのサイトには障害者や高齢者は来ないので、アクセシビリティなんて別に関係ない」「役所関係ならまだしも、うちは商業なので関係ない」という人がいますが、これらはちょっと的外れな考えです。

アクセシビリティは、どんなウェブサイトにも関係のある話です。

その理由は、次の3つです。

  1. ウェブそのものがアクセシビリティと切り離せないから
  2. 健常者でもアクセス不能になることがあるから
  3. 会社や事業の態度としてそのまま表れるから

1. どんなウェブサイトもアクセシビリティと表裏一体

どんなウェブサイトも、アクセシビリティとは切っても切り離せない関係にあります。だから全く無視するのはナンセンスです。

ウェブは昔から、いろんな端末から見られるのが当たり前でした。コンピュータには多様なOSがあり、スマホやタブレットにも数え切れないほど機種があり、ウェブブラウザもそれぞれ様々、先にあげた障害に対応するようなものから、ゲーム機やテレビもあります。

そして、それが強みでもあります。どんな端末を使っているかわからない、遠く離れた人にも情報を届けます。ウェブサイトを作るという行為じたい、その強みを使いたいからすることです。

その強みは、ウェブアクセシビリティの概念そのものでもあります。つまりアクセシビリティはウェブサイトの要素のひとつともいえるので、両者は表裏一体の存在なのです。

2. 障害者と高齢者だけが「アクセス不能」とは限らない

ありとあらゆる人が配慮の対象になりえるから、アクセシビリティをまったく無視することはできません。

配慮の対象とは「目が見えないので特殊な端末を使っている」というようなケースに限りません。

多くの人は「自分は健常者だからアクセシビリティなんて関係ない」と思っていますが、ある日突然怪我や病気で障害を負う可能性は誰にもあります。あるいは、一般的にはあまりたいしたことじゃないと思われているようなことが、本人にとってはアクセスへの妨げだったりもします。

例えば誰しもがなる老眼とか、日本語がわからないとかでも、コンテンツを読む妨げになる以上、配慮の対象にすべき場合があります。

3. その決定が企業の態度として表れる

ウェブアクセシビリティを無視することは、企業イメージを下げます。適切に配慮したほうが得です。

アクセシビリティをどの程度守るのかは、そのウェブサイトの主が自ら方針を決めていいことですが、その決定には企業の姿勢が表れます。担当者がアクセシビリティへの配慮を進言しても、上司や経営陣が無視や否定をするケースも残念ながらあるでしょう。

ウェブアクセシビリティなんてどうでもいい、という決定はそのまま「身体にちょっとでも不具合のある人は、ストレスを感じながら閲覧せよ」というネガティブメッセージと同じです。SNS全盛のこんにち、世間はこうした企業姿勢に対してとても敏感です。悪い評判は良い評判よりも圧倒的に拡散力が高いのです。

疑問3 : ウェブアクセシビリティを実現するのに、どのくらい手間がかかるのか?

ウェブアクセシビリティを守るのはそこまで難しいことではありませんが、制作する側も、依頼する側も、両方が理解しておくべきことがあります。

そんなに手間じゃないけど、「後付け」では難しい

ウェブサイトをアクセシブルに作ることは、技術的にはまったく難しいことではありません。規格についてはこのあと述べますが、ウェブブラウザ標準の表示や機能を活かしたり、HTMLの正しい記述を守ったりしていればクリアできることがらもけっこうあります。

ただ、アクセシビリティを守ったウェブサイトを作るためには、たいていは初めからそのつもりで作る必要があります。なぜなら、構造やデザインも要件のひとつだからです。

すでにあるウェブサイトに、あとから何か機能を加えれば「アクセシビリティ対応サイト」に変わる!とは考えないでください。それは大間違いです。

典型的なのが「文字を大きくしたり小さくしたりできるボタン」です。一見アクセシビリティに配慮したっぽい雰囲気が出るので自治体や病院などのウェブサイトで好んで導入されていますが、あれがついているから「アクセシビリティに配慮したウェブサイトだ」とは言えません。基準を守られているかどうかはまた別の話ですし、そもそも実際に役に立っているかどうかも疑問です。

ウェブアクセシビリティで守るべき基準

「このウェブサイトはアクセシビリティが守られていますよ」と言えるために、こんな基準が守られていればOKということがらをまとめた規格があります。

日本でよく用いられているのはJIS規格「JIS X 8341-3」です。この内容はW3Cの勧告「WCAG 2.0」が元になっています(W3CというのはHTMLの定義をやっているウェブの父みたいな団体です)。規格は企業が独自に決めたりもできるのですが、たいていは以上のどちらかが用いられています。

JIS規格ではどんな基準が挙げられてるかというと、例えばこんな感じです(以下わかりやすいように意訳したものですので、あくまで参考として読んでください)。

  • テキスト以外のコンテンツ(画像、音声、映像)には代替テキストをつけること。
  • 全体の構成がきちんと作られていて、テキストだけでも内容が把握できること。
  • コンテンツが、感覚的な見せ方に依存していないこと。
  • 色のコントラストが一定の基準以上に保たれていること。
  • 文字のサイズが一定の基準以上に保たれていること。
  • キーボードのみの操作でも閲覧できること。
  • 点滅など動きのある装飾を、閲覧者が自分の意思で止められること。
  • 発作を引き起こすような閃光を使わないこと。
  • ナビゲーション部をスキップするリンクがあること。
  • ページごとにタイトルがあること。
  • 文章は見出しを用いて構造のある形で書かれていること。
  • 問い合わせフォームなどの入力欄は、使う人が間違いを起こしにくく、もし間違えてもすぐ気付いて修正できるように作られていること。
  • どんなブラウザ(支援技術を含む)も解釈できるよう、技術的に(HTMLとか)正しく書かれていること。

デザインの考え方、デザイナーの選定に注意が必要

アクセシビリティに配慮したウェブサイトを作る上で、いちばんコケやすいポイントは、デザインです。依頼者がたんなる自分の好みを押し通したり、デザイナーがやたらと装飾や表現を優先すると、アクセシビリティが無視されたウェブサイトが生まれます。

ウェブデザイナーが「やさしい雰囲気を出すために柔らかい色使いにしましょう」といってコントラストの低すぎる配色を提案、依頼者もそれに納得して同意してしまう、結果、老眼の人には甚だ読みにくいウェブサイトができてしまう……といったことは悲しいくらいによく起こっています。

ウェブアクセシビリティ基準を守るにはある程度強いコントラスト比が必要なので、じつは「やさしい」雰囲気に持っていきづらいという事情があるのですが、大切なのは、そういうときどうするか、です。

アクセシビリティを守ったウェブサイトを作りたいのであれば、デザイナーやコーダーとの間で「どの程度の基準を守るか」をあらかじめ合意しておくべきでしょう。もちろん決裁権を持つ人にも。

アクセシビリティに配慮しつつある程度の表現性も満たせるデザイナーがいればベストなのですが、残念ながら日本でウェブデザイナーを名乗る人の中で、そこまでできる人はあまり多くはないのが実情です。なので、ウェブサイトのあるじが「どうしたいか」をはっきりしておく必要があります。

まとめ : ウェブアクセシビリティは、むしろ商売の味方

ウェブアクセシビリティは面倒で商売の足枷になるというのは完全に誤解で、むしろ商機を広げてくれるものです。

物販サイトを想定すると、アクセシビリティを強く必要とする人ほど外での買い物が難しく、ネット購入に頼りたい傾向にあります。ということは、ウェブサイトのアクセシビリティの向上が売上に直結することは十分にあり得ます。

ショッピングサイト以外でも、ウェブアクセシビリティへの配慮は企業イメージの向上に直結します。toB戦略としても有効ですし、採用活動にもプラスに働くでしょう。

ウェブは公共の場です。ウェブサイトに自社の情報や商品を載せるということは、基本的には、多くの人に広く見てほしいと願ってする行為であるはずです。

だったら、どこで誰がどんな端末で見ても大丈夫なウェブサイトを作るほうがいいですよね。アクセシビリティを守るというのはそのくらい、もっと当たり前に考えていいことではないでしょうか。


もっと詳しいことは追々ご紹介していきますので、ご興味のある方はぜひ他の記事も読んでみてください。また、もう少しこんなことが知りたい、というリクエストがある方は、フォームからお寄せください。

ウェブサイトのアクセシビリティについて詳しく知りたい方は、この本がおすすめです(といいますか、これ以外に選択肢がないくらい)。ウェブサイトを依頼する側の方にも、デザイナーやコーダーが読んでも役に立つ内容です。