ウェブサイトの画面の右下によくある「上へ戻るボタン」(「ページトップボタン」「To TOP ボタン」)ですが、不要です。
私のところでウェブサイトを作るときは「上へ戻るボタン」は入れませんし、入れさせません。お客さまから要望があっても、入れるべきではないことを説明して納得していただきます。
では、なぜ不要なのか? その理由を説明します。
「本当に必要だから入れてる」わけではないから
「上へ戻るボタン」をなぜ入れるのか? をウェブデザイナーに尋ねてみましょう。こんな答えが返ってきました。
- よく見かけるパーツなので、入れるのが常識なんだろうと思っていたから
- 他のデザイナーもみんなやってるから
- 有名企業のサイトがやってるから
- あったほうがなんとなく親切っぽいから
- デザインパーツとして使いやすいから
ウェブ制作に携わっている人でさえ、「上へ戻るボタン」に対する認識ってこんなものです。
もし、「上へ戻るボタン」に何も変え難い重要な役割があり、どうしても入れておくべきものだというのなら、導入すべきです。
しかしながら、長年ウェブの仕事に関わってきた私ですら、その「どうしても」の理由に遭遇したことがありません。
ブラウザの機能に任せるべきだから
ブラウザがもともと持っている機能は、ウェブサイトの画面上に組み込むことはしないのが普通です。そして「上へ戻る」機能はおよそどんな端末でも予め備わっています。
iPhone、iPadでは上部をタップすると上に戻る機能があります。
パソコンでも、キーボードのホームボタンを押すと上部に戻ります。
もし「上へ戻るボタン」をウェブサイトの画面上に組み込むべきなら、戻る/進むボタンやブックマークボタン、検索バーも入れるべき、という話になってしまいます。
本当に親切とはいえないから
こういう話をしていると、
「画面の上部をタップすると上へ戻るなんて私は知らなかったし、多くの老人は知らないのだから、上へ戻るボタンは入れておくべき」
という意見を言ってくる人がいます。
「親切で入れるのだから、あったほうがいいに決まってるじゃないか」
というわけです。
しかし、考えてみたいのは、本当に親切か? という点です。
ブラウザ自体が持つ「上へ戻る」機能を知らないくらいリテラシーの低い人なら、「上へ戻るボタン」で戻れるということにさえ気づいていない可能性もあります (えー、身内で実際そういうことがありました)。
間違ってタップすることもあるでしょう。意図せず上に戻ってしまって「なんだこのサイトは! どこかおかしいんじゃないか」と憤慨している人もいそうです。
必ずしも
「上へ戻るボタンを備えた = 老人に親切にした」
とはいえない、と私は思います。
ましてや
「上へ戻るボタンを備えた = ウェブアクセシビリティに配慮」
では決してありません。
「このパーツを備えたから、このサイトは親切な設計だ」という点に制作側が慢心すると、ほかの大切なことをすっぽかしてしまいがちです。ウェブアクセシビリティでよく話題になる「文字を大きくするボタン」と似たようなことがいえると思うのです。
格好をつけるためだけの装飾デザインになりがちだから
ウェブサイト制作において、基本的には「格好をつけるためだけの装飾パーツ」を入れることはやるべきではない、限られた場合を除いて、というのが私の考えです。ナビゲーションの範疇の部位ならなおさらです。
でも「上へ戻るボタン」は、デザイン上格好をつけるためだけに入れられているケースがよくあります (ちょっと実体験入ってます)。
デザイナーが主導するウェブサイト制作では、多くはページ全体の静止画としてのデザイン画から作られます。その際、ウェブサイトというものの構造の特性上、右下に空間ができがちです。
そこで「上へ戻るボタン」の登場です。
「クライアントからは全然情報が来ないし、文章も素材も提供してくれない。なんとかして画面デザインだけは格好をつけなくちゃ」とデザイナーが困っているときに、「上へ戻るボタン」はある意味、救世主かもしれません。
ほかからは独立したパーツなので、自由にデザインしやすい特徴もあります。「上へ戻るボタン」だけにやたら凝ったデザインを施せば、画面全体をもたせることもできます。
そして目立つので、クライアントも好みを言いやすい。「これは凝っていて可愛いですね」とでも言われたらもう、最後まで絶対にそれを外すわけにはいきません。
そのあとは、上へ戻るボタンが本当に必要かなんて、関係者の誰も一切触れません。そしてそのままリリース。
上へ戻るボタンがいつのまにかこんなに普及した理由って多分こんなもん。
上に戻られてる場合じゃないから
利用者を誘導する先は購入や問い合わせフォームであって、ページ上部に戻させるのは意味がない、というのも「上に戻るボタン」が必要ない理由のひとつです。
どんなウェブサイトにも、利用者になんらかの行動をとってほしい、とらせたいという目的があります。
企業のウェブサイトなら問い合わせに至ってほしいし、ショッピングサイトなら購入してほしいわけです。個人ブログにだって目的があり、もっと違う記事も読んでほしいとか、メルマガ登録してほしいとか、なんらかの願いが必ずあります。
利用者に行動をとってもらうためには、ウェブページを上から順にスクロールしながら読み進み、最下部あたりに行動喚起 (CTA / Call to Action) のためのボタン (もしくは他の記事へのリンクや広告などなど) を置く、というのが普通です。
そして利用者がボタンを押してくれるように、よくよく考えてコンテンツを配置する。これが本来の在り方です。
つまり、本当は上になんて戻ってほしくないのであって、むしろ戻らずにボタンやリンクを押してくれるように、コンテンツを作り設計をしなければならないはずなのです。
「上へ戻るボタン」が無反省に導入されているということは、利用者が望ましい行動をとってくれるまでの道すじを何も考えていない (専門的な言い方をすると、コンバージョンへの動線設計をやってない、下手すると目標すら認識されてない) 可能性が高いです。これもまた、デザインのみで考えたウェブサイトにありがちな話ではあります。
上へ戻るボタン (ページトップボタン) がいらない理由
この記事でお伝えしたかったことは次のとおりです。
「上へ戻るボタン」は入れないでおきましょう。その理由は…
- (1) 「本当に必要だから入れてる」サイトはほとんどない
- (2) 端末側の機能で操作できることを、サイト上で無理に導入する必然性がない
- (3) 本当に親切とはいえないし、ウェブアクセシビリティ配慮にもならない
- (4) 格好をつけるためだけの装飾デザインならいらない
- (5) 利用者にはサイトの目的に合わせた行動を促したいので、上に戻るよう誘導するのは意味がない
ウェブの世界は「みんながやっているので、なんとなくやっている」ことがとっても多いです。でも、ちゃんと考えるとそれってどう? ということも結構多いんですよ。